打ち合わせの日は水曜日でした。
彼女と話していると、小学生の子ども達が、つぎつぎと中に入ってきました。駄菓子を選んだり、子ども同士で話したり、今までやっていた遊びの続きをしたり、それぞれの時間を楽しんでいるようだった。
自身の40何年前の幼少期を振り返ると、当時は近所に公園はなく、遊び場は近くの山林や川、タイルの資材置き場でした。子供が安全に遊べるようなお膳立てされたものはなく、ターザンごっこのツルが切れたり、川で足を滑らせたりして生傷が絶えなかった。タイル廃材置き場では、より可愛いタイルを日が暮れそうになるまで探し、埃で真っ白になって家に帰ると、はたきを持った母親にはたかれてからしか家に入れてもらえなかったり。大人になって忘れてしまう出来事も多いが、そういった幼少の時の記憶は今でも鮮明に覚えている。
そしてその時一緒に遊んだ近所のお姉ちゃん、同級生、泣き虫下級生の記憶も。
そこで自分より年上の子に、色々教えてもらい(言葉ではなく行動で)、また自分も下の子の面倒をみるようになった。学校以外、家庭以外での子ども達同士が小さな集団の中で、知らず知らずの内に子供同士でルールを作り、遊び方を考え楽しんだものだった。
時代は変われど、そんな子どもの頃の遊びを大切にしたい、子ども達が成長していく中で、ここでの思い出が少しでも思春期や悩んだ時の支えになる事があればと、子どもの〝居場所〟を主宰している方が今回の多治美人さんゲストです。
自身が経験した懐かしい思い出話にも花が咲き、とても楽しいインタビューとなりました。
多治見、生まれ多治見で育ち。年齢よりまだあどけない顔立ちで、とても2人のお子さんがいるママには見えない。
現在彼女が、子どもの集まれる居場所として主宰しているのが、『ちゃどかん』。
現在は毎週水曜日、15時から開けているので、学校帰りの主に小学生が気軽に立ち寄れ、コミュニケーションの場となっています。
そもそも、なぜ『ちゃどかん』を始めようと思ったのか?そのルーツを聞いてみました。
中学3年生の時進路を考え、〝子どもが好き〟という事が、自分の中で一番ピンとくるものでした。
大学は現代子ども学科を専攻し、在学中に幼稚園、保育園の保育士の資格を取得します。そして卒業後は春日井市の幼稚園に就職し、5年間勤めます。年長の担任をしていた時、ふと自分の中である想いが出てきたとのこと。「子どもの遊びって、目標のあるものなの?」「子どもってもっと伸び伸びしていてもいい!」その想いはどんどん強くなり、「小学校進学のために幼稚園があるの?」と自分の中の葛藤と向かい合いながら仕事をしていたとの事。
そんな時、子ども達の遊び場(プレーパーク※1)作りをしている〝プレーワーカー〟という存在を知る事になります。初めて見たのは東京の品川駅近くのプレーパークでした。代表者にアポをとり、その現場を見て代表者の方のお話を聞くために、学美さんは東京に向かいました。
「品川駅から徒歩で約5分と聞いて、慣れないヒールのある靴で行ったんです。そこは、はじめに想像していた光景と全く違うもので、衝撃を受けました!」
都会のアパートの間の公園で、子ども達が思い切り泥んこになって遊んでいたのです。自分の勤めていた幼稚園では無かった光景。自分が住んでいる場所の方が、そんな風に遊べるところはたくさんあるはずなのに、それが実施されているところは少ない。いつしか自分たちでそんな場所を作りたいと考え、子ども達がルールに縛られることなくのびのびと遊ぶことのできる場所『たじみプレーパーク・楽風(らふ)』を2013年に立ち上げます。
※1、プレーパークとは、公園にあるような既成のブランコ、シーソーのようなお仕着せの遊び場だけでなく、一見無秩序な場所であっても子ども達の想像力で遊びを作ることのできる遊び場の事をいいます。
他の地域でもこういった活動をしている方に話を聞いてみたいと思うようになり、ついに現在の『ちゃどかん』をはじめるきっかけとなった出会いがありました。
静岡県富士市田子の浦にあるプレーパーク「冒険遊び場たごっこパーク」そこで、小学生だけでなく、中高生、若者までもが川に飛び込んだりして、思いきり遊んでいた光景に衝撃を受けました。そしてそのパークを運営しているご夫婦がもう一つ運営されているのが『子どものたまり場・大人のだべり場 おもしろ荘』。小学生は勿論中高生や若者が日常的に集い何気ない時間を過ごしていました。
こことの出会いにより、学美さんの中にも心境の変化が現れます。
月一だけでなく、日常でも子ども達と触れ合える場所を作りたい。集い場という形なら始められるかもと。
そして、勤めていた幼稚園を退職し、まだ独身の時にこの『ちゃどかん』をはじめてしまうのです!
学美さんがコツコツと貯めてきた夢貯金を使い、家具や備品は戴いたもので賄い手探りの中でのスタートとなりました。
この『ちゃどかん』という、何ともかわいいようなネーミングはどういった意味があるのか?
実はバングラデシュという国からきています。バングラディッシュは世界最貧国と言われていますが、街の至る所に、ちょっとした人の集う場所があります。そこでは子どもも大人も集い、お茶を飲んだり、ゲームをしたりしています。そんな日常の場所という事をもとに「ちゃ」=お茶、「どかん」=土間やお店、というベンガル語からつけました。
たしかに、ちゃどかんは喫茶店ほど気負わず、子ども達が一息つける場所という感じを受けます。
『ちゃどかん』には漫画やボードゲームなどもありますが、目を引くのは駄菓子。ここに来る子ども達はもらったお小遣いの中で、どんなモノを買おうか、あれやこれやと考えている姿を見るのが面白いと言います。
例えば与えられた100円の内訳をどうするか。小さな金額だけど、そんな事でもお金の使い方を学んでいくのだろうと思いますと彼女は言います。それを『100円のロマン』と呼んでいます(笑)。
「たまに親御さんと一緒に来て買っていく場合があるのですが、次の予定もあるのか親さんは、〝早くしなさい〟と言ってしまう。子どもがクジを引いてみたいと思っていても、〝そんなの当たらないからやめたら〟と失敗しないように声をかけてしまう。それが子どもの選択肢を奪ってしまっていることもあると思います。これは駄菓子選びに限った事ではなく、親であればやってしまいがちな事です。30円しか持っていないのに、それを全部クジに使ってしまい、すべて外れて〝あ~、しまった!〟と言っている子もいますが、自分で決めた事での失敗体験は大切ですよね」と。
私も幼少期の時、当時はたくさんあった近所の駄菓子屋に100円握りしめて、ちょっと上の近所のお姉さんとよく行っていた。そこでどんなものを買おうかワクワクしたものです。何かをあきらめて、今日はこれを買うみたいな事を幼いながらに選んでいた事が、今になってすごくいい思い出になっています。
『ちゃどかん』をはじめて、子ども同士の口コミもあり、少しずつ遊びにきてくれる子どもも増えていったとの事。ご自身も5年前に結婚し、ここに住まいを構え、2人の男の子のママでもありますが、自分の子ども達も、ここに遊びに来るお兄ちゃん、お姉ちゃんの中で遊んでもらえる事はとてもいい環境になっていると。
「ちゃどかんを始めて5年経って、子どもってすごい!!と感じる事ばかりで。大人が子どもにいい思いをさせてあげようとか、大人がお膳立てした事はあまり上手くいかない事が多くて、それより子ども達が楽しいと思ってチームワークでやり遂げた事だったり、子ども同士でちゃんとルールを作って遊んでいるところをみて、子どもの力をもっと信じてあげていいと思えます。」
机の上に置いてあった、手作りの冊子に目がいった。
毎年、近くの小学校の6年生が授業の一環として、街の好きなところを編集してパンフレット作りをしています。冊子には写真や切抜き、イラストなどちゃどかんでの思い出が描かれていました。ここに来ている子どもの親さんが学校に掛け合ってくださり見せてもらう事ができたとの事。
「子ども達の想いが嬉しかったです。なんだかラブレターをもらった気分でした。」
特別な事は何も無い。でも何気ない日常が子ども達の心にちゃんと残っていて、そこにいつもお帰りといって迎えてくれる大人がいる。そんな場所と思い出が時代が変われども必要なのだと思わせてくれるエピソードでした。
家族や学校の先生以外で、叱ってくれた大人、褒めてくれた大人、相談に乗ってくれた大人。それは強烈に記憶にあるものだと思います。
小学校を卒業した子ども達の中でも数人ですが、たまにここに顔を出してくれる子もいるのだそう。
ここを続けていく事で、大人になった子達とも付き合いができ、長くご縁が生まれる気がします。
「ここに遊びに来ていた子ども達が大人になって、〝そういえば、あそこにあんなおばちゃんいたな〟って思い出してくれるだけでも嬉しい。でもあと数年後には一緒にお酒を飲める子がいたらたらいいな」と、今はまだまだお姉さんな学美さんは微笑みました。
今は小さな子どもがいるので、動きやすいジーンズ・パーカーなどのママファッションが多いです。
でも本当はワンピースも好きです。
ここは昔から好きな場所です。レトロな雰囲気で多治見の生活の歴史を感じます。
自宅からも歩いて行けますので、買い物にもよく行くのですが、商店街の方も顔を覚えてくださって声をかけてくれます。そんな日常的な会話ができるところも好きです。
よく買い物に行く「安藤商店」さん。焼き芋も食べられます。息子が寝言で「安藤さん、ごちそうさま」といいた事を店主の安藤さんに伝えると、とても喜んでくださったとの事です。
多治見にはおもしろい人や、自分がやりたいと思った事を応援してくれる人がたくさんいます!
もっと冒険遊び場や子どもたちのための場所が増えるといいなとおもいます。
ルールや規制で子どもたちを管理する場所ではなく子どもの育ちを楽しんで見守れる場所が必要だとおもいます。
コーディネート・取材・ライター |
: |
山下真美子 (POLA 紗ら) |
ヘアメイク | : | 鈴木利奈子(POLA THE BEAUTY多治見住吉店) |
動画撮影編集 |
: | 富田由芳(ロージーチークス ) |
ネイルデザイン |
: | 小林八智子(ネイルサロン トレゾール ) |
カメラマン | : | 纐纈愛弓(Petit Ange プティアンジュ) |
ウェブサイト制作 | : | 馬場研二 |