#010 小川夏都代さん


お名前:小川夏都代さん

un plus、オーナージュエリークラフトマン )

出身 :多治見市笠原町生まれ

現在 :多治見市笠原町在住

取材日:2019年8月6日

小さな橋を渡って少し車を走らせると、道の奥にグリーンとブルーのさわやかな色合いの工房&ショップが見えてきます。

ところどころ笠原ならではのタイルが施され、入るのがワクワクするようなショップです。

店内は女性なら誰しもカワイイ!と声を上げてしまいそうなジュエリーやタイルをモチーフにしたようなバッグなどの雑貨類が並びます。そしてその奥には本格的なジュエリー工房が。お店の名前は『un plus』。今回はここのオーナー兼ジュエリークラフトマンである小川夏都代さんにお話を伺ってきました。

ジュエリークラフトマンってどうやってなるの?ジュエリークラフトマンとして地元笠原に貢献したい事とは?

子供たちに地元企業ってかっこいい!て思ってもらいたい。大人って楽しいよ!と伝えたい。

そんな想いがあふれたインタビューでした。

経緯もジュエリーもフリースタイル

多治見市笠原町生まれの笠原育ち。笠原の方と結婚し現在も笠原に在住。生粋の多治見っ娘、笠原っ娘の夏都代さん。

両親もタイル関係の会社を営んでいたこともあり幼い頃からタイルに触れて育ちます。

短大を出てトリマーの仕事に就こうと思っていました。しかし動物の毛のアレルギーが出てしまい、止む無くその夢をあきらめる事に。迷走している時に出会ったのが、東京藝大教授でもあった宮田宏平(みやたこうへい)さんの蝋型鋳金の映像。その作品と生き方に衝撃を受け突発的にジュエリーを作りたいと。思い立ったらすぐ行動という性分な彼女はジュエリー専門学校の名古屋校・第一期生として宝飾デザイン加工を勉強します。講師に現役の職人さんがいた事もあり丁寧に指導されましたが、ここでの学びと出逢いが今後のクラフトマンとしての人生に大きく影響します。

卒業後は名古屋のジュエリーショップに就職し、加工制作を担います。

「着付けを勉強していたこともあり、はじめはジュエリーというより、着物で使う帯留めやかんざしをデザイン制作してみたいと思っていました。」

彼女の作品にどことなく和の雰囲気を感じるのはその感性からなのか。

作品には自然をモチーフにしたものも多く、リーフや木々をイメージし作られている。「これが私の作品です!という具体的な表現のものではなく、例えば山に散策に行き、そこで見たものからイメージして抽象的に表現しています」本人が頭の中でぐるぐるとイメージしたものを人に言葉として話すのはとても難しいのは、芸術家ならではであろう。

フリー、Plus One More...

名古屋のジュエリーショップに8年勤務。結婚後もパートとして勤務しながら、他のお店でも加工の勉強しつつ下請をしながらジュエリークラフトマンとして独立。はじめは笠原の実家の一室を借りて、制作していました。

家族はお仕事に反対されなかったですか?

「主人もわりと自由な考えの人で、両親も私が普通に働く人じゃないと思っていたみたいです(笑)」

ご家族の理解もあり、実家の工房から2018年1月に現ショップの『un plus』をオープンします。

un plusという名前は一見、〝プラスでは無い〟と否定的な感じにも受けてしまいそうですが、フランス語だとunは1という意味でもあり、否定にも聞こえる言葉からジュエリーというカタチだけではなく気持ちがプラスされるという意味合いも込めています。

創作活動としてのコンセプトは、①心地よさ②循環 です。特に循環というものを大切にしていて、新しいものを作る事も好きなのですが、元からあったジュエリーをリフォームする作業も好きなのです。

というのも、親や大切な人から譲り受けた想いの詰まったジュエリー、そのままでは使いづらい。それを時代と共にその人らしく新しい形にリフォームし想いを繋いでいくことが循環にあたると思います。

実は最近こんなエピソードが。

ご依頼は90歳近い男性が奥様を亡くされ、49日の法要までに奥様の指輪をペンダントにして身につけたいとのとこ。男性はペンダントが出来上がるまでヘルパーの方が大丈夫かと思われるくらい落ち込んでしまっていたようです。しかし、納品させていただいたら元気を取り戻してくださり、歩くのもやっとだったのに代金の振込もその日中に自分が行く!とおっしゃってくださいました。その人の思い出の品が、形を変えてまた自分の中に生き続けてくれる。そのお手伝いができた事が嬉しかったですと。

彼女の作品が女性らしい曲線デザインでもありながら、どこか力強さや生命力を感じる。生きる力を循環と言う形で残していきたい。そんな想いが作品にも表れている気がしました。

「1級貴金属装身具技能士」という国家資格を持つ彼女ですが、以前はオーダーの下請なども行なっておりましたが、お客様の声を直接聞けない、ご要望がうまく正確に伝わってこない事の葛藤もありました。だから今は自分が直接お客様と打合せ、直接想いなどを受け取りながら作品が作れることが幸せです。

「私、お金の計算が苦手で(笑)。借金が返せて心地よく仕事ができればいい。なんとかやっていけるし、ありがたいことに人には恵まれています。」

現在、小学4年生の息子さんと、5歳の娘さんの子育てをしながらショップ経営されていますが、お客様にも恵まれて、お子さんのペースに合わせて作ってくれればいいよ~と温かい言葉をかけてもらえるそうです。子ども達にも、自由に選択した人生を生きてほしい。私がこんな風でも何とか楽しく生きている事で、それが伝わっていればいいと思います。

夏の都から世界へ向けて

ベトナムに材料仕入れや、デザインした作品の制作依頼に行っています。モザイクタイルをモチーフにしたデザインをおこして籠バックを現地で作ってもらっているとの事。

毎回子供たちも連れていきます。長い滞在ではありませんが外国の地で子供たちが刺激を受ける事もありますし、時にはたくましく私を助けてくれることも。いい経験になっていますね。

今度はスリランカの鉱山に行きたいと思っています。ジュエリーの原石の採掘現場を見てみたい。昔ながらのやり方で感謝と祈りをささげて掘っていくところを目の前で見て感じたい。入れてもらえるかどうかはわかりませんが絶対に行きます。

地元タイル企業さんは色々と努力されつつも昔のようにどこからでもタイルの音が聞こえてきていた時代ではなくなりました。私の親もタイル関係の仕事をしております。この道に入った約20年前、今は当たり前の時代ですが当時父はタイルを使ったジュエリーを作るべきだと言ってました。

当時はCHANELくらいしか焼き物に興味を持って無い時代でしたが、アイデアマンな父にはたくさんの刺激を受けて育ったことに独立した今になって気づくことも多いですね。ジュエリー加工という一見、畑違いなところかと思われますが、この今の立ち位置から地元タイル産業を盛り上げていけたらと思っています。

例えば子供たちに地元を支えているタイル工場で働く大人のかっこよさを知ってほしい。地元で働く事にも誇りを持ってほしい。働く場所は多治見でも、作った作品は世界に行っていること、必要とされているからこそ地元で働く人が大切なこと。地元から世界に発信できる。

そんな担い手になる子供たちが増えるように私も微力ながら働きかけていきたいと思います。

 

インタビューした日は燦々と太陽が照りつける夏。全国屈指の暑さを誇る多治見は、まさに「夏の都」。

夏の都で育った、熱い熱い想いをもった夏都代さんにこの時期に取材できたこともまた何かのご縁に違いない。


好きなファッションは?

アフリカンダンスをしている事もあり、民族衣装っぽいデザインのものが好きです。

その他だと、上半身は白か黒を着ている事が多いかも。


多治見お気に入りスポットは?


お気に入りの理由は?

元々タイルが小さい頃から身近なこともあり、タイルの色とりどりなところはもちろん、タイルのジャラジャラとした音がとにかく好きなのです。

タイルをジャラジャラ触っている時の擦れた音を聞くと子どもの頃の感覚になります^ ^

懐かしいタイルシンクを作られているお店があると知った時は衝撃と嬉しさと懐かしさでキュンキュンしました♪

地元企業さんの色々な商品も見られるお店で&ennさんもですがどちらも大好きなお店です。

(ちなみに作善堂さんのお兄さん、水野モータースさん達が&enn経営されています。)

余談ですが、作善堂さんの最近の丸シンクを見て我が家のトイレの陶器の手洗いもタイル施工できないかと

考えているところです。


多治見の好きなところ・いいところ

自由なママがたくさんいるところ。

多治見市という小さなコミュニティの中でも、自分が好きなものが選びやすい環境があるのではないかと思います。



多治見がもっとこうなったらいいな

子どもベースで仕事を考える機会があるといいと思ってます。インタビューでも伝えましたが、子どもたちが地元や工場で働く大人をっこいい。僕もやってみたい!すげー!といつもと違う大人の姿など見てもらいたい。「子ども参観日」みたいな子供達に地元の工場や工房などの見学をしてもらう機会もたくさん設けて、自分自身でどうしたいか、どうなりたいかを考える環境もあってもいいのではないかと思います。


コーディネート・取材・ライター

:

山下真美子 (POLA 紗ら)
ヘアメイク 鈴木利奈子(POLA THE BEAUTY多治見住吉店

動画撮影編集

: 富田由芳(ロージーチークス )

ネイルデザイン

: 小林八智子(ネイルサロン トレゾール 
カメラマン : 纐纈愛弓(Petit Ange プティアンジュ
ウェブサイト制作 : 馬場研二